最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)1439号 判決 1968年2月23日
上告人
深堀敬
被上告人
平石平太郎
右訴訟代理人
桜木富義
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人柴田健太郎名義の上告理由について。
被上告人と上告人との間で、昭和三七年六月二日第一審判決添付目録(二)の土地について、売主を被上告人、買主を上告人、代金坪当り金六、〇〇〇円の割、代金中金八〇、〇〇〇円は契約と同時に残金は同月以降毎月一一日に金五、〇〇〇円ないし三、〇〇〇円の割合の割賦で支払う旨の売買契約がされたこと、そして、右売買契約においては、所有権移転登記手続は代金完済と同時にすること、それまでは買主(上告人)は契約の目的物である土地の上に建物その他の工作物を築造しないことという特別の約款がつけられていたことは、原審が適法に確定した事実である。ところで、右特別の約款が外見上は売買契約の付随的な約款とされていることは右確定事実から明らかであり、したがつて、売買契約締結の目的には必要不可欠なものではないが、売主(被上告人)にとつては代金の完全な支払の確保のために重要な意義をもつものであり、買主(上告人)もこの趣旨のもとにこの点につき合意したものであることは原判決(その引用する第一審判決を含む。)の判文からうかがわれる。そうとすれば、右特別の約款の不履行は契約締結の目的の達成に重大な影響を与えるものであるから、このような約款の債務は売買契約の要素たる債務にはいり、これが不履行を理由として売主は売買契約を解除することができると解するのが相当である。
ところで、上告人は右特別の約款に反して、前記目録(二)の土地について昭和三七年六月一二日福岡法務局西新町出張所受付第一〇、三〇二号をもつて所有権移転の本登記手続をし、かつ、第一審判決添付別紙目録(四)の工作物をつくつたこと、そして、これらの上告人の行為は被上告人に対する背信行為であること、被上告人が上告人に対し昭和三七年八月三日右を理由に売買契約を解除したことは、原審の認定判断したところであるが、この認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。引用の判例はいずれも本件に適切でない。そうとすれば、本件売買契約は同日有効に解除されたものというべきである。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎)